省エネ計算とは、建築物のエネルギー消費性能を評価し、 省エネ基準に適合しているかを判定するための計算手法です。 2025年4月以降は、すべての新築建築物で省エネ計算が義務化されます。
省エネ計算の対象となるのは、建物の外皮性能(UA値・ηAC値)や 一次エネルギー消費量(冷暖房・換気・照明・給湯設備など)です。 これらの基準を満たさない場合、建築確認済証が交付されません。
本記事では、省エネ計算の基本・計算方法・設計のポイントについて解説します。
2025年4月1日から、省エネ計算の義務化が拡大し、すべての新築建築物が対象になります。
従来、省エネ基準の適合義務は大規模な非住宅建築物に限られていました。しかし、2025年以降は住宅も含めたすべての新築建築物が適合義務の対象となり、建築確認申請の際に省エネ計算の提出が必須となります。
改正の目的は、建築物の省エネ性能を向上させ、温室効果ガスの排出を抑えることです。これにより、環境負荷の低減と、エネルギー効率の高い建築物の普及が期待されています。
この法改正により、設計士はより高い断熱性能とエネルギー効率を確保する設計を求められます。
2025年4月から施行される改正建築物省エネ法は、建築物の省エネルギー性能向上を目的としています。
改正の背景
日本の住宅・建築物部門は、全エネルギー消費の約3割を占めており、産業や運輸部門に比べて過去20年で増加が著しい状況にあります。
また、2050年カーボンニュートラル、2030年度温室効果ガス46%排出削減(2013年度比)の実現に向け、2021年10月、地球温暖化対策等の削減目標を強化することが決定されました。
改正の目的
今回の改正の主な目的は、以下の通りです。
- 建築物の省エネルギー性能向上を加速させること。
- 木材利用の促進を図ること。
これらの施策により、脱炭素社会の実現に寄与することが期待されています。
2025年の省エネ法改正では、すべての建築物が省エネ基準の適合義務の対象となります。 これにより、これまでの規制と比べて、大きく3つの違いが生じます。

出典:国土交通省HP
改正前と改正後の主な違い
- ① 住宅にも適合義務が適用
これまでは住宅は「届出義務」のみだったが、2025年以降は非住宅と同じ適合義務が課される。 - ② 300㎡以上の非住宅に課されていた義務が小規模建築物にも拡大
これまでは300㎡未満の非住宅建築物は「説明義務」のみだったが、今後はすべて適合義務の対象となる。 - ③ 確認申請の審査が強化
省エネ基準に適合しないと建築確認済証が交付されない。
この改正により、すべての設計士・施工者が省エネ計算の対応を求められる時代になります。 では、実際にどのような変更点があるのでしょうか?
次の2.3「主要な変更点」では、設計業務や確認申請に与える具体的な影響について詳しく解説します。
2025年の法改正により、すべての新築建築物が省エネ基準適合の対象になります。 これに伴い、設計士の業務には以下のような影響が出ると考えられます。
まず、建築確認申請時の審査が厳格化され、 省エネ計算の精度や提出書類の正確さが求められます。
また、設計段階での省エネ対策の重要性が増し、 省エネ計算をどのタイミングで行うかがスケジュール管理の鍵となります。
さらに、施主に対する省エネ基準の説明も必要になります。 追加コストや設計変更の理由を明確にし、納得を得ることが求められます。
設計士にとって、単に基準を満たすだけでなく、 コスト・デザイン・省エネ性能のバランスを取ることが重要になります。
次の章では、建築確認申請の審査がどのように変わるのかについて詳しく解説します。
2025年の省エネ基準改正により、建築確認申請の審査がより厳格化されます。 これにより、省エネ計算の提出が義務化され、適合していない場合は確認済証が交付されません。
建築確認申請で求められる省エネ適合審査
これまでの建築確認申請では、耐震性や防火性能の確認が主でしたが、 2025年以降は省エネ適合性判定も審査対象になります。
- 一次エネルギー消費量が基準を満たしているか
- 外皮性能(断熱性能)が適合しているか
- 省エネ設備の導入状況
適合しない場合のリスク
省エネ基準に適合していないと、建築確認申請が通らず、 工事着工が遅れるリスクがあります。
- 確認申請が差し戻され、再提出が必要になる
- 設計のやり直しが発生し、工期が延びる
- 施主への説明責任が増え、信頼低下につながる
スムーズな申請のために設計士がやるべきこと
建築確認申請をスムーズに進めるためには、事前の省エネ計算が不可欠です。
- 設計初期の段階で省エネ適合性を確認する
- 省エネ計算の専門家と連携し、適合判定をスムーズにする
- 最新の基準に対応した設計フローを確立する
次の章では、設計業務の負担増加について詳しく解説します。
2025年の省エネ基準適合義務の拡大により、設計業務の負担が増加すると考えられます。 特に省エネ計算の実施や適合判定のための書類作成が求められ、 設計士の業務フローにも影響を及ぼします。
1. 省エネ計算の追加
これまで対象外だった小規模建築物にも省エネ基準適合義務が適用されるため、 全ての新築建築物で省エネ計算が必須になります。
- UA値・ηAC値・BEI(建築物省エネ性能評価)の計算
- 省エネ計算書の作成と確認申請書類への添付
2. 設計プロセスの複雑化
省エネ基準適合のために、断熱仕様や設備設計を省エネ基準に適合させる必要があります。
- 適合基準を満たす断熱材・窓・設備機器の選定
- 一次エネルギー消費量の計算を考慮した設計
3. 書類作成・申請業務の増加
建築確認申請時に省エネ適合の審査が行われるため、省エネ計算書や関連書類の提出が求められます。
- 申請書類の準備・作成にかかる時間の増加
- 行政審査のための追加対応(指摘対応・修正)
設計士に求められる業務はこれまで以上に増加し、効率的な業務フローの構築が重要になります。
2025年の省エネ法改正により、すべての新築建築物に省エネ基準適合が義務化されます。 これに伴い、設計士には施主に対して適合義務の意義や設計変更の必要性を説明する責任が求められます。
● 省エネ基準適合の意義と施主への説明義務
従来、省エネ基準への適合は大規模非住宅建築物が中心でしたが、今後はすべての建築物が対象となります。 そのため、設計士は施主に対して以下の点を説明する必要があります。
- なぜ省エネ基準適合が必要なのか
- 適合しない場合の影響(確認申請が通らない可能性など)
- 省エネ対策を導入することのメリット
● コスト増加に対する施主の不安をどう解消するか
施主の多くは、省エネ基準適合によるコスト増加を懸念します。 これに対し、以下のような説明を行うことで、理解を得やすくなります。
- 長期的な光熱費削減 → 高断熱・高効率設備の導入により、運用コストが抑えられる
- 補助金の活用 → 省エネ性能向上のための補助金制度を紹介
- 資産価値の向上 → 省エネ性能が高い建物は市場価値が上がりやすい
● 省エネ性能向上がもたらす長期的メリット
省エネ基準に適合することで、以下のような長期的なメリットが得られます。
- 光熱費の削減 → 高性能断熱材や高効率設備の採用により、エネルギーコストが削減
- 居住環境の向上 → 温度変化が少なく快適な室内環境を実現
- 将来的な規制への適応 → 今後のさらなる省エネ基準強化にも対応しやすい
省エネ基準適合の説明は、施主の理解を得るだけでなく、設計士としての信頼性向上にもつながります。 次の章では、省エネ計算の基礎について詳しく解説します。
2025年の省エネ基準改正により、すべての建築物で省エネ基準適合が義務化されました。 これに伴い、建築設計の際には省エネ計算が必要になります。
省エネ計算では、建物の外皮性能や一次エネルギー消費量を数値化し、 設計が基準を満たしているかを確認します。
この章では、省エネ計算の基本を解説し、設計士が実務で押さえるべきポイントを整理します。
省エネ基準において、外皮性能は建物の断熱性や日射遮蔽性能を評価する重要な指標です。 特に、UA値(外皮平均熱貫流率)とηAC値(冷房期の日射熱取得率)が省エネ性能を評価する上で重要な基準となります。
1. UA値(外皮平均熱貫流率)とは?
UA値は、建物の外皮(屋根・壁・窓・床など)からどれだけ熱が逃げるかを示す指標で、 数値が小さいほど断熱性能が高いことを意味します。
- UA値 = 建物全体の熱損失量 ÷ 外皮面積(W/㎡K)
- 基準値を満たすことで、省エネ適合が認められる
- ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)ではさらに厳しい基準を求められる
2. ηAC値(冷房期の日射熱取得率)とは?
ηAC値は、夏期の冷房負荷を抑えるために、窓などの開口部からの日射熱取得をどれだけ制御できるかを評価する指標です。
- 数値が低いほど、冷房負荷の低減につながる
- 開口部の配置や日射遮蔽(庇・ブラインド)の工夫が重要
- 地域区分によって求められる基準が異なる
3. 外皮性能を向上させる設計のポイント
- 断熱材の強化: 屋根・壁・床に高性能断熱材を使用
- 窓性能の向上: 低放射複層ガラス(Low-E)や高断熱サッシを採用
- 日射遮蔽の工夫: 庇・軒・外付けブラインドを活用
外皮性能を適切に設計することで、冷暖房負荷の低減や快適な室内環境の確保が可能になります。 次のセクションでは、一次エネルギー消費量基準について詳しく解説します。
建築物の省エネ性能を評価する際に重要なのが一次エネルギー消費量基準です。 これは、建物内で使用する空調・照明・換気・給湯設備などのエネルギー消費量を数値化し、 一定の基準値を満たすかどうかを判断するものです。
BEIとは?
BEI(Building Energy Index)は、建物の省エネ性能を数値で示す指標です。 BEI = 設計一次エネルギー消費量 ÷ 基準一次エネルギー消費量 の計算式で求められ、 数値が1.0以下であれば基準を満たしていると判断されます。
また、BEIの基準値は用途ごとに異なる点に注意が必要です。 例えば、オフィス・商業施設・学校・病院など、それぞれの建物用途に応じて 基準一次エネルギー消費量が設定されており、適合の難易度も変わります。
BEIについてさらに詳しく知りたい方は、以下のブログをご覧ください。
BEIとは? 詳細解説ブログはこちら一次エネルギー消費量に影響する要素
設計時に一次エネルギー消費量を抑えるためには、以下の要素を適切に管理することが重要です。
- 外皮性能(断熱材の厚み・窓性能・日射遮蔽)
- 空調設備(高効率エアコン・換気回数の最適化)
- 照明設備(LED・調光システムの導入)
- 給湯設備(高効率ボイラー・ヒートポンプ)
- 再生可能エネルギー(太陽光発電・BEMSの活用)
一次エネルギー消費量を適切に管理することで、省エネ基準の適合をスムーズに進めることができます。 次の章では、設計士が押さえるべきポイントについて詳しく解説します。
省エネ計算の基準をクリアするだけでなく、実務で適用できる設計の工夫を理解することが重要です。 ここでは、設計士が省エネ計算において意識すべきポイントを整理します。
1. 省エネ計算の流れを把握する
設計のどの段階で省エネ計算を行うかがプロジェクトのスムーズな進行に影響します。
- 基本設計時に概算計算を行い、省エネ適合の見通しを立てる
- 実施設計段階で詳細な計算を行い、基準適合を確認
- 確認申請前に最終チェックを実施し、計算ミスを防ぐ
2. 設計段階での工夫
建築の省エネ性能を向上させるために、設計の工夫が必要です。
- 外皮性能の向上:断熱材の最適な厚み・窓ガラスの選定
- 設備機器の高効率化:省エネエアコン・LED照明の導入
- 建物形状の工夫:シンプルな形状で熱損失を抑える
3. 省エネ計算の精度を高める
計算ミスは審査の遅延につながるため、以下の点に注意しましょう。
- 最新の基準や計算方法を正しく理解する
- エネルギー消費量の算定で見落としがないか確認
- 計算結果を第三者とクロスチェックする
設計士は、単に基準を満たすだけでなく、省エネ性能を最大限に引き出す工夫が求められます。 次の章では、設計士が取るべき対応や、外注の選び方について解説します。
省エネ基準の適合義務化により、設計士には正確な省エネ計算が求められるようになっています。 しかし、すべての設計事務所が省エネ計算のノウハウを持っているわけではなく、 業務負担を軽減するために外部へ委託することも選択肢の一つです。
この章では、設計士が取るべき対応策と、 省エネ計算を外注する際のポイントについて解説します。
コスト・業務負担・精度のバランスを考え、 どのように対応すべきかを見極めていきましょう。
省エネ基準適合の義務化により、設計士はどのように対応するかを選択する必要があります。 ここでは、大きく分けて3つの選択肢を紹介します。
1. 自社で省エネ計算を行う
設計事務所内で省エネ計算を行うことで、設計の自由度を確保しつつ、 クライアントへの説明もスムーズになります。
- 設計と同時進行で計算できるため、計画変更にも柔軟に対応可能
- 省エネ計算のスキルが社内に蓄積される
- 外注コストを削減できる
ただし、省エネ計算には専門知識が必要であり、 習得には時間とコストがかかる点に注意が必要です。
2. 外注して省エネ計算を依頼する
専門の計算代行サービスを活用することで、 省エネ計算の手間を削減し、本来の設計業務に集中できます。
- 短期間で正確な計算結果を得られる
- 省エネ基準の最新情報を専門家が把握している
- 設計士自身の負担を軽減できる
ただし、外注費用がかかるため、コスト面での検討が必要です。
3. ハイブリッド型(部分的に自社対応+外注)
設計段階の簡易計算は自社で行い、 最終的な適合判定は外注する方法もあります。
- 社内での計算スキルを高めつつ、確実な適合判定を得られる
- コストと業務負担のバランスが取りやすい
どの選択肢が最適かは、設計事務所の規模や業務量によって異なります。 次のセクションでは、自社対応と外注の比較について詳しく解説します。
省エネ計算の対応方法として、自社対応と外注のどちらを選択するかは、設計事務所の規模や業務量によって変わります。 それぞれのメリット・デメリットを比較し、最適な選択をしましょう。
自社対応のメリット・デメリット
- メリット
- 設計の自由度を維持しながら省エネ基準に適合できる
- 省エネ計算のノウハウを社内に蓄積できる
- 長期的に見れば外注コストの削減につながる
- デメリット
- 省エネ計算の習得に時間とコストがかかる
- 設計業務と並行して行うため、負担が増える
- 計算ミスが発生すると、申請の手戻りが発生するリスクがある
外注のメリット・デメリット
- メリット
- 専門家に依頼することで、高精度な計算結果を短期間で得られる
- 最新の省エネ基準に基づいた適切な計算ができる
- 設計士は本来の業務に集中できる
- デメリット
- 外注コストが発生する
- 計算内容を完全に把握できないと、設計変更時の対応が難しくなる
- 外注先とのやり取りに時間がかかる場合がある
自社対応と外注のどちらを選ぶかは、設計事務所のリソースや業務効率を考慮して判断する必要があります。 次のセクションでは、信頼できる外注の選び方について解説します。
省エネ計算を外注する場合、依頼先の選定が重要になります。 信頼できる外注を選ぶことで、計算ミスや手戻りを防ぎ、スムーズな業務進行が可能になります。
信頼できる外注の判断基準
- 過去の実績が豊富で、省エネ適合判定の対応経験がある
- 最新の省エネ基準や計算方法に精通している
- 納期を厳守し、迅速な対応が可能
- 設計士との連携がスムーズで、的確なアドバイスを提供できる
- 見積もりが明確で、費用の透明性がある
外注先を選ぶ際のポイント
- 事前に計算精度や対応範囲を確認する
- 他の設計事務所の口コミや評判をチェックする
- 省エネ基準改正の動向に対応できるかを確認する
- 業務範囲(計算のみ、申請サポートまで含むなど)を明確にする
外注の質が業務の効率や申請のスムーズさに直結するため、慎重に選定することが重要です。 次の章では、本記事の内容をまとめて振り返ります。
2025年の省エネ法改正によって、建築設計における省エネ対応はより一層重要になります。 すべての新築建築物が省エネ基準適合の対象となり、設計段階からの対応が不可欠です。
今回の記事では、改正のポイントを整理し、設計士が取り組むべき課題について解説しました。
省エネ基準改正による主な変化
- すべての新築建築物に省エネ基準適合義務が適用
- 建築確認申請時に省エネ基準適合の審査が必須
- エネルギー消費量の評価基準が明確化され、より厳格な基準に
- 設計業務の負担増加と省エネ計算の重要性の高まり
これに伴い、設計の自由度を維持しながら、基準を満たすための対応が求められます。
設計士が今すぐ取り組むべきこと
- 最新の省エネ基準を理解し、適切な設計を進める
- 省エネ計算を早めに行い、確認申請のスムーズな進行を意識する
- 外部の専門家と連携し、より精度の高い計算を活用する
省エネ基準適合は、単なる義務ではなく、建築の価値を高める手段でもあります。 コスト削減や環境負荷軽減にもつながり、将来的な資産価値の向上にも貢献します。
設計士としての負担を軽減しながら、より良い建築を実現するために、 最新の知識を活用し、適切な計算と計画を進めていきましょう。
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