大規模非住宅建築物とは?設計士が押さえるべき定義・基準・設計ポイントを徹底解説

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目次 1. 大規模非住宅建築物とは? その重要性と影響
1. 大規模非住宅建築物とは? その重要性と影響

省エネ基準の強化により、設計の現場にも大きな影響が出ています。 特に「大規模非住宅建築物」に該当するかどうかは、設計の自由度やコスト、確認申請の進めやすさに関わります。

2024年4月には大規模非住宅建築物の省エネ基準が厳格化され、 2025年4月からはすべての建築物に適用義務が拡大される予定です。

では、「大規模非住宅建築物」とはどのような建物なのか? また、「延べ床面積2,000㎡以上」の基準はどのように判断されるのか?

この章では、大規模非住宅建築物の定義と、設計・確認申請に与える影響について見ていきます。

1.1 どんな建物が該当するのか?
1.1 どんな建物が該当するのか?

大規模非住宅建築物に該当するかどうかは、建築物の用途と延べ床面積によって決まります。 省エネ基準の適合義務が拡大する中で、自分が設計する建物が対象になるのか、最初に確認することが重要ですね。


● 以下のような建物は、大規模非住宅建築物に該当する可能性があります。

  • オフィスビル(企業が入居する業務用ビル)
  • 商業施設(ショッピングモール、百貨店、大型スーパー)
  • 医療・福祉施設(病院、クリニック、介護施設)
  • ホテル(宿泊を目的とした建築物全般)
  • 教育施設(小学校、中学校、高校、大学、専門学校)

● 延べ床面積の考え方

建築物の用途だけでなく、延べ床面積によっても該当するかどうかが決まります。

例えば、以下のようなケースでは、大規模非住宅建築物として扱われることがあります。

  • 各階800㎡の3階建ての商業施設(合計2,400㎡)
  • 同じ敷地内に本館1,500㎡+別館800㎡のホテル(合計2,300㎡)

また、同じ敷地内に複数の建物がある場合、 それぞれの建物の延べ床面積を合算する必要があるため、設計の初期段階での確認が重要です。

1.2 「2,000㎡以上」の判断基準とは?
1.2 「2,000㎡以上」の判断基準とは?

2025年の省エネ法改正により、すべての建築物(住宅・非住宅問わず)に省エネ基準への適合義務が発生します。

そのため、2,000㎡以下の建築物でも適合義務はあります

では、「2,000㎡以上」という基準は何を意味するのか?

これは、建築物が「大規模非住宅建築物」に該当するかどうかの区分を示すものであり、 次のような追加の手続きが必要になります。


● 2,000㎡以上の建築物では、以下の対応が求められます。

  • 省エネ適合性判定が義務化(確認申請時に審査が必要)
  • 詳細なエネルギー消費量の計算が求められる
  • BEI(建築物省エネ性能評価)による適合審査
  • 届出・審査の手続きが必要になる

例: 延べ床面積が2,500㎡のオフィスビルを新築する場合、 建築確認申請の前に、省エネ適合性判定を受ける必要があります。


● 延べ床面積の考え方

延べ床面積とは、建築物のすべての階の床面積を合計したもので、以下のような面積が含まれます。

  • オフィスや商業スペースの室内面積
  • エントランスやロビー、廊下などの共用部
  • 設備機械室(空調・電気設備など)

例: 3階建ての商業施設で、各階が800㎡の場合、 800㎡ × 3階 = 2,400㎡ となり、「大規模非住宅建築物」として扱われます。


● 複数棟がある場合の扱い

同じ敷地内に複数の建物がある場合、 各建物の延べ床面積を合算して2,000㎡を超えるかどうかを確認する必要があります。

  • 本館と別館がある場合(オフィスビル、ホテルなど)
  • 同じ用途の建物が複数ある場合(商業施設、学校など)
  • 共用部でつながっている建物(連絡通路や吹き抜けのある施設)

例: 敷地内に1,500㎡のホテルと800㎡の別館(宿泊棟)がある場合、 合計で2,300㎡となり、「大規模非住宅建築物」として扱われます。


● 設計段階での早めの確認が重要

2,000㎡を超えるかどうかの判断は、 設計の初期段階で行うことが重要です。

例: 設計段階で延べ床面積を誤って1,900㎡と計算し、 確認申請後に実際は2,100㎡だったと判明した場合、 追加で省エネ適合性判定が必要となり、工期の遅れやコスト増加につながることがあります。

そのため、設計の早い段階で「この建物は2,000㎡以上になるのか?」を正確に判断し、 適切な省エネ計画を立てることが求められます。

2.2024年・2025年の省エネ基準改正と設計・施工への影響
2. 省エネ法改正の背景と今後の動向

建築物の省エネ基準は年々厳格化され、設計や施工の現場にも大きな影響を与えています。 2024年4月には大規模非住宅建築物の省エネ基準が引き上げられ、2025年4月にはすべての建築物に適合義務が拡大される予定です。

この改正の背景には、エネルギー消費量の削減や脱炭素社会の実現という国の長期的な環境戦略があります。 設計・施工の現場では、今後さらに厳しくなる基準への対応が求められます。

省エネ基準がどのように強化されているのか、なぜ必要とされているのか、今後どのような影響があるのかを理解することは、 設計士や施工者にとって不可欠です。

この章では、2024年4月の改正内容、基準強化の背景、そして2025年4月の適合義務拡大について詳しく解説していきます。

2.1 2024年4月の法改正で大規模非住宅建築物の省エネ基準が強化
2.1 2024年の大規模非住宅建築物のBEI基準改正と2025年の省エネ適合義務の拡大

2024年4月から、大規模非住宅建築物(2,000㎡以上)を対象としたBEI基準の用途別設定が導入されました。 さらに、2025年4月には省エネ基準の適合義務がすべての建築物に拡大される予定です。

この改正は、建築物のエネルギー消費削減を目的とし、2030年度のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化目標に向けた第一歩となります。


● 2024年4月のBEI基準改正(大規模非住宅建築物)

これまではすべての大規模非住宅建築物に同じBEI基準が適用されていましたが、用途ごとに異なるBEI基準値が設定されました。 用途ごとに省エネ性能が見直され、15%~25%の削減が求められるようになっています。

用途BEI基準値削減率
工場等0.7525%
事務所、学校、ホテル、百貨店等0.820%
病院、飲食店、集会所等0.8515%

BEIの計算方法や、適合基準の詳細については 3.2 BEIとは? で詳しく解説しています。


● 2025年4月の省エネ適合義務の拡大

これまで適合義務の対象は、大規模・中規模非住宅建築物(300㎡以上)が中心でしたが、 2025年4月からは、小規模な非住宅建築物や新築住宅も適合義務の対象となります。

適合義務が広がることで、省エネ計算や適合審査がすべての建築物に求められることになります。

詳細な影響や実務対応については、2.3 省エネ基準の適合拡大と設計・施工への影響で詳しく解説します。

2.2 省エネ基準が厳格化される理由
2.2 省エネ基準が厳格化される理由

日本では、省エネ基準の強化が加速しています。その背景には、 エネルギー価格の高騰カーボンニュートラルの推進、 そして国際的な省エネ基準への適合といった要因があります。

建築物のエネルギー消費は、日本全体の消費量の約3割を占めており、 特に非住宅の大規模建築物(オフィス・商業施設・工場など)が大きな割合を占めるため、 省エネ性能の向上が不可欠となっています。


● エネルギー消費量削減の必要性

大規模非住宅建築物は、電力消費量が非常に多く、省エネ対策の優先対象です。 例えば、オフィスビル、商業施設、医療機関、工場では、空調・照明・機械設備の消費エネルギーが高く、 省エネ基準の適合が特に重要視されています。

また、エネルギー価格の高騰により、建築物の運用コストを抑えるための省エネ化が必須となっています。 省エネ基準の強化は、長期的なランニングコスト削減や環境負荷の低減につながるため、 設計段階からの対策が求められます。


● 2030年度に向けたZEB化目標

政府は2030年度までに、新築の非住宅建築物のZEB化を推進しています。

ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)とは、建物で消費するエネルギーを削減し、 太陽光発電などの再生可能エネルギーを活用することで、年間のエネルギー収支をゼロにすることを目指す概念です。

対象となるのは、オフィスビル、商業施設、工場、学校、医療施設などの非住宅建築物であり、 住宅(戸建・共同住宅)はZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)という別の概念で進められています。

ZEBを実現するためのポイント

  • 高性能な断熱・日射遮蔽による省エネ設計
  • 高効率な設備(空調・照明・換気・給湯)の導入
  • エネルギー管理システム(BEMS)の活用
  • 再生可能エネルギー(太陽光発電など)の積極的導入

● 国際基準との整合性

欧米ではすでに厳しい省エネ基準が導入されており、日本も国際基準に適応する形で規制を強化しています。 特に、脱炭素社会の実現に向けて、建築物のエネルギー消費量を削減する動きが加速しています。

また、企業の環境評価(ESG投資)においても、省エネ対策を重視する傾向が強まり、 環境負荷の低い建築物の評価が高まっています。 省エネ基準の適合が、企業の競争力向上につながる時代になっています。


● 建築業界への影響と今後の展望

省エネ基準の厳格化は、設計・施工の現場に大きな影響を与えています。 特に、エネルギー消費量の計算や適合判定の手続きがこれまで以上に厳格化しており、 事前の対策が不可欠となっています。

また、2025年4月には適合義務の対象がすべての建築物へと拡大される予定です。 これにより、住宅や小規模な非住宅建築物にも新たな対応が求められます。

2.3では省エネ基準の適合拡大と設計・施工への影響について詳しく解説していきます。

2.3 省エネ基準の適合拡大と設計・施工への影響
2.3 省エネ基準の適合拡大と設計・施工への影響

2025年4月から、省エネ基準の適合義務がすべての建築物に拡大されます。 これにより、これまで適合義務の対象外だった小規模な非住宅建築物や住宅も含め、省エネ基準への適合が必須となります。

省エネ基準の強化は、エネルギー消費量の削減やカーボンニュートラルの推進を目的としており、 建築業界全体に大きな影響を与えます。


● 2024年4月の省エネ基準引き上げによる影響

2024年4月に適用されたBEI基準の引き上げにより、 設計・施工の現場では以下のような変化が見られました。

  • 建築コストの増加:省エネ基準を満たすための建材・設備のコストが上昇。
  • 設計の見直し:特に大規模非住宅建築物において、エネルギー消費量を抑えるための設計変更が必要に。
  • 施工の精度向上:断熱材や設備の施工精度がより厳格に管理されるようになった。
  • 行政審査の強化:確認申請時に省エネ基準適合の審査がより厳しくなり、追加資料の提出が求められるケースが増加。

● 適合義務の拡大による影響

適合義務が拡大することで、すべての建築物に対して以下のような影響が生じます。

  • 設計の自由度が変化:省エネ基準を満たすために設計の制約が増加
  • コスト増加:高性能な断熱材や省エネ設備の導入が必要
  • 事前の計算・確認が必須:設計段階でBEIや一次エネルギー消費量を考慮
  • 行政手続きの増加:確認申請時に省エネ適合性の審査が必要

● 課題と解決策

課題解決策
設計・施工の負担増加省エネ計算代行会社と連携、社内に技術者を確保
建築コストの上昇国や自治体の補助金・助成金の活用
施工管理の強化現場チェックリストの導入・施工品質管理の徹底
新基準への対応遅れ信頼できる公的機関(国土交通省、環境省、IBEC、経済産業省、BCJ等)の情報収集

● 今後の展望

今後、省エネ基準の強化はさらに進むと予想されます。 具体的には、2030年のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)目標に向け、 さらなる基準の見直しや、適合審査の厳格化が進む可能性があります。

そのため、設計段階から省エネ対策を組み込むことが不可欠であり、 長期的なコスト削減と省エネ効果を見据えた計画が求められます。

3では、省エネ基準に適合するための具体的なフローや実務対応について詳しく解説します。

3. 設計・施工で求められる対応
3. 設計・施工で求められる対応

2025年4月の省エネ基準適合義務の拡大により、すべての建築物が省エネ性能の向上を求められる時代に入ります。

しかし、設計・施工の現場では、「具体的にどのような対応が必要なのか?」「従来のやり方と何が変わるのか?」といった疑問を抱く場面も多くなるでしょう。

特に、省エネ基準の適合には設計段階からの対策が不可欠です。エネルギー消費量の計算・評価、設備の高効率化、施工品質の向上など、幅広い対応が求められます。

まず、省エネ計算の基本となる一次エネルギー消費量の考え方を理解し、建築物の省エネ性能を数値的に評価する方法を押さえる必要があります。

その上で、BEI(建築物省エネ性能評価)を満たすための具体的な対策や、設計段階でのポイントを整理することが重要です。

設計・施工のどちらの現場でも、省エネ基準を適切に満たすための知識と対応が求められる時代です。この章を通じて、実務に即した省エネ対策のポイントを整理していきましょう。

3.1 一次エネルギー消費量基準とは?
3.1 一次エネルギー消費量基準とは?

省エネ基準の適合義務を満たすためには、建築物の一次エネルギー消費量を正しく評価することが求められます。

一次エネルギー消費量とは、建築物が使用するエネルギーを発電や輸送のロスを含めた形で数値化したものです。 単に電気やガスの使用量を見るのではなく、そのエネルギーが供給されるまでにかかるエネルギーコストも考慮するのが特徴です。

例: 電気とガスを同じ1kWh使った場合でも、発電時のエネルギーロスを考慮すると、 電気の一次エネルギー換算値は約3.6MJ、ガスは約1.0MJとなります。 そのため、一次エネルギー消費量を適切に計算し、基準を満たしているかどうかを確認する必要があります。


● 一次エネルギー消費量基準の目的

省エネ基準において一次エネルギー消費量を指標とする目的は、 建築物のエネルギー性能を客観的に評価し、省エネ対策の方向性を明確にすることです。

  • 省エネ性能の数値評価 → 建築物のエネルギー効率を客観的に把握できる
  • 高効率設備の導入促進 → 省エネ型の空調・照明・給湯設備の導入を推進
  • 長期的なランニングコスト削減 → 建物の運用時にエネルギーコストを抑える

● 計算方法と基準のポイント

一次エネルギー消費量の計算は、設計段階でのエネルギーシミュレーションによって行われます。 計算には、以下のようなエネルギー項目が含まれます。

  • 空調設備(冷暖房)
  • 換気設備
  • 照明設備
  • 給湯設備
  • 昇降機(エレベーター・エスカレーター)

この一次エネルギー消費量の合計が、国の定めた基準値をBEI(建築物省エネ性能評価)により評価されます。 BEI値が1.0以下であれば、省エネ基準に適合しているとみなされます。


● 設計時の注意点

一次エネルギー消費量を削減するためには、設計の初期段階から省エネ対策を考慮することが重要です。

  • 建物の断熱性能を向上させる → 断熱材の強化、窓ガラスの高性能化
  • 高効率設備を採用する → LED照明、高効率空調システム、エネルギー管理システム(BEMS)の導入
  • 再生可能エネルギーを活用する → 太陽光発電や蓄電池の設置

省エネ基準の適合義務がすべての建築物に拡大される2025年以降、 一次エネルギー消費量の計算と適合対策は、設計・施工の現場でますます重要になります。

3.2では、BEI(建築物省エネ性能評価)とは何か?について詳しく解説します。

3.2 BEI(建築物省エネ性能評価)とは?
3.2 BEI(建築物省エネ性能評価)とは?

BEI(Building Energy Index) は、建築物の省エネ性能を評価する指標です。 建築物が「基準と比べてどれくらいエネルギーを使用するか?」を示し、省エネ基準への適合可否を判断する基準となります。


● BEIの計算方法

BEIは、以下の計算式で求められます。

BEI = 実際の一次エネルギー消費量 ÷ 基準一次エネルギー消費量

BEIが小さいほどエネルギー消費量が少なく、省エネ性能が高いことを示します。

  • BEI = 1.0 → 基準と同じエネルギー消費量
  • BEI = 0.8 → 基準より20%エネルギー消費が少ない
  • BEI = 1.2 → 基準より20%エネルギー消費が多い

● 2024年4月の改正での変更点

以前は「BEIが1.0以下なら適合」とされていましたが、2024年4月の改正で用途ごとに異なるBEI基準値が設定されました。 そのため、建築物の種類によって求められるBEI値が変わり、適合のハードルが用途ごとに異なります。

用途BEI基準値
オフィスビル(事務所)0.8以下
工場0.75以下
病院0.85以下

この改正により、BEIが1.0以下であっても用途ごとの基準値を満たさなければ適合しない仕組みになっています。


● BEIと省エネ対策の関係

BEIを適合させるためには、以下のような対策が必要になります。

  • 建物の断熱性能を向上(高性能断熱材、日射遮蔽対策)
  • 高効率な空調・照明・給湯設備の導入
  • エネルギー管理システム(BEMS)の活用
  • 再生可能エネルギー(太陽光発電など)の導入

● BEI適合における注意点

BEIが基準値以下であっても、省エネ基準に適合しないケースがあります。

  • 建物の外皮性能(断熱・日射遮蔽)が基準を満たしていない
  • 省エネ設備(空調・照明・給湯など)の適切な運用が行われていない
  • 実際のエネルギー消費量が想定よりも大きく乖離している

そのため、設計段階だけでなく、運用時のエネルギーマネジメントも重要です。


● 2024年4月の改正による影響

2024年4月の改正によって、大規模な非住宅建築物ではより厳格な省エネ基準が適用されるようになりました。 今後の設計・施工では、BEIの基準値を満たすための詳細な計算と設備選定がより重要になります。

この改正の詳細については、国土交通省が公表している資料を確認することが推奨されます。

【参考】国土交通省:大規模な非住宅建築物の省エネ基準の改正
国土交通省公式資料(PDF)

3.3では、設計段階で考慮すべき省エネ対策のポイントについて解説します。

3.3 設計段階で考慮すべきポイント
3.3 設計段階で考慮すべきポイント

2024年4月の省エネ基準改正により、大規模非住宅建築物の設計ではより厳格なエネルギー性能基準をクリアする必要があります。 特にBEI基準値の適合が求められるため、設計の初期段階から省エネ対策を十分に検討することが不可欠です。

ここでは、設計段階で考慮すべき具体的なポイントについて解説します。


● BEI基準値を満たすためのエネルギー計算を早期に実施する

設計の終盤になってからBEI計算を行うと、基準値を満たさない場合に大幅な設計変更が必要になる可能性があります。 そのため、基本設計の段階で一次エネルギー消費量の計算を実施し、基準を満たせるかどうかを早めに確認することが重要です。

  • 初期段階で省エネ計算を行い、適合しないリスクを回避
  • 設備設計(空調・照明・給湯など)をBEI適合に最適化
  • 設計変更を最小限に抑え、工期・コストの無駄を削減

※ BEIの詳細については、3.2 BEIとは? を参照。


● 外皮性能の向上を優先的に検討する

建物の外皮性能(断熱・遮熱)は、冷暖房負荷の削減に直結するため、BEI適合には欠かせません。 断熱性能を高めることで、エネルギー消費量を抑え、基準値をクリアしやすくなります。

  • 高断熱の外壁・屋根・窓の採用(高性能ガラス・Low-Eガラスなど)
  • 日射遮蔽(庇・ルーバー・反射材の活用)
  • 適切な断熱材の厚み設定による熱損失の最小化
  • 気密性向上によるエネルギーロスの低減

● 設備機器の選定はBEIの適合を考慮して行う

BEIの適合には、高効率な設備機器の導入が必須です。 特に、空調・照明・給湯設備は建築物全体のエネルギー消費量の大部分を占めるため、慎重な機器選定が求められます。

  • 高効率ヒートポンプ式エアコン・変風量制御(VAV)の導入
  • LED照明の採用・人感センサーや調光制御の活用
  • 高効率ボイラー・ヒートポンプ給湯器の導入
  • 太陽光発電・蓄電池システムの設置(ZEB化対応)
  • エレベーター・エスカレーターの高効率制御
  • BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)の活用

● BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)の導入を検討する

エネルギー消費の最適化には、BEMS(Building Energy Management System) の活用が有効です。 BEMSを導入することで、建築物のエネルギー使用状況をリアルタイムで監視・制御できるため、 設計時のBEI適合だけでなく、運用時の省エネ効果も期待できます。

  • 空調・照明・給湯設備のエネルギー消費をリアルタイム監視
  • 自動制御によるエネルギー使用の最適化
  • ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化への対応が容易

特に、大規模非住宅建築物はエネルギー消費量が多いため、 BEMSの導入による運用時の最適化が求められる場面が増えています。

4では、省エネ計算の流れと実務対応について解説します。

4. 申請・適合基準の具体的な流れ
4. 申請・適合基準の具体的な流れ

省エネ基準の適合には、設計だけでなく適切な申請手続きが必要になります。特に2024年4月の改正後は、用途ごとに異なるBEI基準が設定され、確認申請時の省エネ適合性判定もより厳格化されています。

設計段階で基準を満たしていても、「どのタイミングで申請するべきか?」「必要な書類は何か?」 を把握していなければ、手続きの遅れや不備によってプロジェクト全体に影響を及ぼす可能性があります。

4では、適合判定の流れをスムーズに進めるために必要なポイントを解説します。

4.1 省エネ計算の流れと実務フロー
4.1 省エネ計算の流れと実務フロー

省エネ基準の適合を確認するためには、省エネ計算の実施が必須 です。 特に2024年4月の改正後、用途ごとのBEI基準値が設定され、適合判定がより厳格になりました。

設計者にとって、省エネ計算は単なる義務ではなく、 コストを最適化しながら基準を満たすための重要なプロセス でもあります。 では、具体的にどのような流れで省エネ計算を進めるのか? 実務で必要な省エネ計算のフローを解説します。


● 省エネ計算の全体の流れ

省エネ計算は、以下のような手順で進めていきます。

  • 建築計画の確認(用途・規模・延床面積の整理)
  • BEI基準値の確認(建築物の用途ごとの適合基準をチェック)
  • エネルギー消費量の算定(外皮性能・設備機器・照明のシミュレーション)
  • 省エネ対策の検討(基準を満たすための調整・仕様変更)
  • 計算結果の確認(BEI値が適合基準をクリアしているか)
  • 必要書類の作成(適合判定の申請書類を準備)
  • 適合判定の申請・確認申請の提出(省エネ適合性判定機関への申請)

● BEI基準値の確認(適合基準のチェック)

2024年4月の改正では、用途ごとに異なるBEI基準値 が設定されています。 例えば、オフィスビルのBEI基準値は0.8以下 ですが、 病院や飲食店などは0.85以下 となります。

設計の初期段階で、対象建築物の用途ごとの適合基準を確認し、計画に反映させることが重要 です。


● エネルギー消費量の算定

省エネ計算では、一次エネルギー消費量 を算定し、BEI基準を満たしているかを確認します。 エネルギー消費量の算定には、以下のような要素が影響します。

  • 外皮性能(断熱材の厚み・日射遮蔽・窓性能)
  • 空調設備(高効率エアコン・ヒートポンプの採用・換気回数の最適化)
  • 照明設備(LED照明・調光システムの導入)
  • 給湯設備(高効率ボイラー・ヒートポンプ給湯器)
  • 再生可能エネルギー(太陽光発電・BEMSの活用)

● 省エネ対策の検討(設計調整)

省エネ計算を行った結果、BEI基準を満たしていない場合、設計の調整が必要 になります。 調整するポイントとして、以下のような方法があります。

  • 外皮性能の強化(断熱材の追加・日射遮蔽の強化)
  • 設備の高効率化(省エネ型の空調・給湯設備の採用)
  • 照明制御の最適化(調光センサーの活用・LED化)
  • 太陽光発電・BEMSの導入によるエネルギー管理

● 省エネ適合性判定の申請と確認申請の提出

省エネ基準の適合を証明するため、適合性判定を受ける必要があります。 省エネ適合性判定機関へ申請を行い、適合判定通知書を受け取る ことで、確認申請が可能になります。

省エネ適合の流れを理解し、適切な手続きを進めることが重要です。 次の 4.2「確認申請のタイミングと注意点」 で詳しく解説します。

4.2 確認申請のタイミングと注意点
4.2 確認申請のタイミングと注意点

省エネ適合性判定が義務化されている建築物では、確認申請の提出タイミング に注意が必要です。 適合性判定の結果を得ずに確認申請を進めることはできないため、スケジュール管理を適切に行うことが重要 になります。

特に、大規模非住宅建築物では設計変更や追加の計算が発生するケース もあるため、余裕を持った申請計画が求められます。 ここでは、確認申請を円滑に進めるための適切なタイミングと、実務での注意点を整理します。


● 確認申請の基本的な流れ

確認申請は、以下のような流れで進めていきます。

  • 省エネ計算の実施(一次エネルギー消費量の算定、BEI値の確認)
  • 適合性判定の申請(省エネ計算の結果をもとに提出)
  • 適合判定通知書の取得(適合審査をクリア)
  • 確認申請の提出(建築確認の申請とともに適合通知書を添付)
  • 審査・許可(建築確認の審査を経て、許可取得)

適合性判定は、確認申請よりも前に行う 必要があるため、スケジュール管理が重要 になります。


● 適合性判定を受けるタイミング

適合性判定の申請は、設計の基本計画が固まった段階で行うのが理想的 です。 以下のタイミングで進めると、設計変更が発生しても対応しやすくなります。

  • 実施設計の完了後すぐに申請(基本設計の段階では計算精度が不十分なため)
  • 建築確認の提出期限から逆算して、余裕をもって申請
  • 適合判定の結果を受けて、必要な修正がある場合は設計調整を行う

特に、大規模な建築物では審査期間が長引く可能性があるため、申請スケジュールの管理が工期全体に影響 します。


● 実務での注意点

適合性判定と確認申請をスムーズに進めるため、以下のポイントに注意が必要です。

  • 省エネ計算の精度を上げる(BEI計算のミスがあると審査が長引く)
  • 適合判定のスケジュールを事前に確認する(審査機関によって所要日数が異なる)
  • 確認申請の前に、適合判定通知書が取得できていることを確認
  • 設計変更が発生する可能性を考慮し、余裕をもったスケジュールを組む

適合性判定と確認申請の両方がスムーズに進めば、工期の遅れを防ぎ、無駄な修正を最小限に抑えることができる ため、 事前の準備とスケジュール調整が非常に重要になります。


確認申請を適切なタイミングで行うことが重要ですが、 申請時に求められる書類の内容も正確に把握しておく必要があります。 適合判定に必要な書類、確認申請に添付すべき資料など、事前に準備を進めておくことでスムーズな手続きを実現できます。

次の 4.3「申請時に求められる書類とは?」 では、 確認申請の際に必要となる書類について詳しく解説します。

4.3 申請時に求められる書類とは?
4.3 申請時に求められる書類とは?

省エネ適合性判定や確認申請を進めるにあたり、必要な書類の準備がスムーズな手続きのカギ となります。 特に2024年4月以降の省エネ基準強化に伴い、求められる書類の内容もより詳細なもの になっています。 事前に必要な書類を把握し、申請の際に不足がないようにすることが重要です。

ここでは、適合性判定の申請時に求められる書類 と、確認申請で添付すべき書類 を表にして整理します。


● 省エネ適合性判定の申請時に必要な書類

書類名内容
適合判定申請書省エネ適合性判定の正式な申請書類
エネルギー消費量計算書一次エネルギー消費量の算定結果を記載
BEI算定結果BEI基準値を満たしていることを示す計算書
外皮性能計算書建築物の断熱性能や日射遮蔽性能を評価
設備仕様書空調・給湯・照明・換気設備の詳細を明記
建築設計図立面図・断面図・仕上げ表などを含む

適合性判定では、エネルギー消費量の算定結果が基準値を満たしているかを確認 するため、 BEI算定結果や外皮性能計算書 などが特に重要になります。


● 確認申請時に必要な書類

書類名内容
建築確認申請書建築物の確認申請を行うための正式な書類
適合判定通知書省エネ適合性判定の審査に合格したことを証明する書類
省エネ計算書類適合判定で使用したエネルギー消費量計算書・BEI算定結果など
建築設計図省エネ基準を満たしていることを示す設計図面

確認申請の際には、適合判定通知書を必ず添付する必要がある ため、 適合性判定の審査が完了してから確認申請を行うことになります。


● 書類準備での注意点

  • エネルギー消費量計算の数値ミスを防ぐ(BEI算定に誤りがないか)
  • 設備仕様書と計算書の整合性を確認(仕様が計算結果と一致しているか)
  • 適合判定通知書の取得後に確認申請を進める(適合審査が完了していることを確認)
  • 設計図と計算書の内容が一致しているか(建築設計図の反映漏れに注意)

申請に必要な書類を適切に準備することで、適合性判定や確認申請がスムーズに進みます。

次の5では、施主や関係者に対して、分かりやすく省エネ基準の適合性を伝える方法について解説します。

5. 施主・行政への説明のポイント
5. 施主・行政への説明のポイント

省エネ基準への適合は、設計・施工の現場だけでなく、施主や行政担当者への説明も重要なプロセスです。

省エネ対策によって設備や仕様が変わる場合、施主に十分な理解がなければ、コスト面や設計変更でトラブルにつながることもあります。そのため、「なぜこの基準が必要なのか?」を適切に伝え、納得を得ることが求められます。

また、確認申請時には、省エネ計算の根拠や適合判定の内容について行政とのやり取りも発生します。審査のスムーズな進行のためにも、適切な説明が欠かせません。

この章では、施主や行政への説明を行う際に納得を得やすい伝え方や、押さえておくべきポイントについて解説していきます。

5.1 施主が納得しやすい説明
5.1 施主が納得しやすい説明

施主に省エネ基準の適合について説明する際、「コストが増えるのでは?」「手続きが複雑なのでは?」といった疑問を持たれることがあります。 こうした不安を解消し、納得してもらうためには、省エネ対策のメリットや将来的な必要性を分かりやすく伝えること が重要です。

施主に理解してもらうためのポイントは、大きく3つあります。


● 省エネ対策のメリットを具体的に伝える

省エネ基準に適合することで、建物にはどのようなメリットがあるのかを明確に伝えましょう。 例えば、以下のような利点があります。

  • 光熱費の削減(エネルギー効率の高い設備の導入で、運用コストを抑えられる)
  • 快適な居住環境(断熱性能の向上により、温度変化が少なく過ごしやすい建物になる)
  • 資産価値の向上(省エネ性能の高い建物は、市場価値が高くなる傾向がある)
  • 補助金や減税措置の活用(省エネ基準を満たすことで、各種の優遇制度を利用できる)

● 初期コストと運用コストのバランスを説明する

省エネ対策を導入すると、初期費用は増えるかもしれません。 しかし、エネルギー消費の効率化により、長期的には光熱費の削減につながるため、 施主にとって経済的なメリットがあることを伝えることが大切です。

例えば、高効率な空調や照明を導入すれば、設備費用は増えますが、 毎月の電気代が下がり、数年後には投資額を回収できるケースもあります。


● 省エネ基準適合が今後の標準になることを伝える

2025年4月以降、すべての建築物に省エネ基準の適合義務が適用されます。 これからの時代、省エネ基準を満たしていない建物は、将来的に価値が下がる可能性があります。

「今後の建築では、省エネ基準適合が標準になる」という視点を持ってもらい、 「今のうちに対応しておく方が得策である」という点を説明すると、納得を得やすくなります。

省エネ基準の適合は、施主にとって義務ではなく、コスト削減や快適性向上につながる「有益な選択」であることを伝えましょう。

次の 5.2「追加コストとメリットの伝え方」 では、 省エネ対策によるコストの増減と、施主への伝え方について詳しく解説します。

5.2 追加コストとメリットの伝え方
5.2 追加コストとメリットの伝え方

省エネ基準への適合には、設備の高効率化や断熱性能の向上などで一定の追加コストが発生する場合があります。 しかし、施主にとって重要なのは、「単にコストが増えること」ではなく、そのコストがどのようなメリットを生むのか という点です。


● 初期投資と運用コストのバランスを説明する

施主が最も気にするのは、初期コストがどの程度増えるのか という点です。 しかし、省エネ設備の導入により運用コスト(光熱費など)が削減 できることを伝えることで、長期的なメリットを理解してもらいやすくなります。

  • 高効率な空調やLED照明を導入すると、設備費用は増えますが、 年間のエネルギー消費量を10~30%削減 できるケースもあります。
  • エネルギーマネジメントシステム(BEMS)を導入することで、 省エネ効果を最大化 し、運用コスト削減を図ることも可能です。

「〇〇円の追加コストがかかるが、〇年で回収できる」 など、 具体的なシミュレーションを提示することで、施主の納得を得やすくなります。


● 省エネ対策による長期的な資産価値の向上

省エネ性能が高い建物は、将来的に資産価値が高まりやすい というメリットがあります。 特に、新築時に省エネ基準をクリアしておくことで、将来の改修コストを抑えられる 可能性もあります。

  • 現在の不動産市場では、エネルギー効率の良い建物が評価される傾向 にあり、 企業のオフィスビルや賃貸物件では、省エネ性能の高さが賃料や売却価格に影響 するケースも増えています。

「今のうちに省エネ基準に適合させておけば、将来の市場価値を維持しやすい」 と説明することで、施主の関心を引くことができます。


● 補助金や減税措置を活用できる可能性を伝える

省エネ対策を実施することで、国や自治体の補助金制度や税制優遇措置 を活用できる場合があります。

  • ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)補助金: 高性能な省エネ設備を導入した建築物への補助金
  • 省エネ改修補助金: 既存建築物の省エネ改修に対する補助金
  • 省エネ改修による固定資産税の軽減措置: 断熱改修や高効率設備の導入による税の減免措置

→ これらを活用すれば、実質的なコスト負担を抑えながら、省エネ対策を導入できる可能性があります。


● 施主にとって「コスト増」ではなく「投資」であることを強調する

追加コストは発生しますが、その分、光熱費削減・資産価値向上・補助金活用 などのメリットがあります。

施主には、「単なるコスト増ではなく、将来的な利益につながる投資」 であることを理解してもらうことが大切です。


次の 5.3「行政審査での注意点」 では、 省エネ基準の適合において、行政とのやり取りで注意すべきポイント を解説します。

5.3 行政審査での注意点
5.3 行政審査での注意点

省エネ基準に適合するためには、行政の審査をクリアすることが必須 です。 しかし、申請書類の不備や計算ミスがあると、審査がスムーズに進まず、差し戻しや修正対応が発生 することがあります。

設計段階で適切な準備をしておくことで、審査の手戻りを減らし、スケジュールの遅延を防ぐ ことができます。 ここでは、行政審査をスムーズに進めるための具体的なポイント を解説します。


● 省エネ計算の精度を高める

行政審査では、一次エネルギー消費量や外皮性能の計算が厳しくチェック されます。 計算ミスがあると、そのまま不適合判定 となることもあるため、事前の確認が重要 です。

よくある指摘事項

  • BEI値の計算ミス → 計算方法の誤りや入力ミス
  • 未算入の設備 → エネルギー消費量に含めるべき設備が抜けている
  • 外皮性能の不足 → 断熱仕様が基準を満たしていない

これらのミスを防ぐためには、計算結果を第三者がチェックする仕組みを作る ことが効果的です。 また、計算ソフトの設定や入力データの正確性を定期的に見直し、最新の基準に対応しているかを確認しましょう。


● 提出書類の不備を防ぐ

省エネ適合性判定の申請では、提出書類の不備が原因で差し戻しになるケース も少なくありません。 事前にチェックリストを活用し、必要な書類がすべて揃っているか を確認してから提出することが重要です。

よくある提出ミス

  • 計算書類の不足 → BEI計算書や省エネ基準適合の証明書が抜けている
  • 図面との不整合 → 提出した図面と計算結果にズレがある
  • 誤った書類の使用 → 最新の審査基準に適合していないフォーマットを使用

これらのミスを防ぐには、最新の申請書式を必ず確認し、事前に行政とすり合わせを行うことが重要です。


● 行政との事前相談を活用する

省エネ適合性判定の申請では、行政との事前相談を行うことで、スムーズな審査が可能 になります。 特に、特殊な設備を採用する場合や、基準の適用が曖昧なケースでは、事前に確認しておく ことが重要です。

事前相談で確認すべきポイント

  • 審査で重点的にチェックされる項目 → どの部分が厳しく見られるか
  • 特殊な設備の扱い → 設備の基準適合が難しい場合の対応策
  • 申請スケジュールの確認 → 審査期間や再提出の可能性を考慮

事前に相談しておけば、書類の不備による審査の遅れを防ぎ、適合判定をスムーズに進める ことができます。


次の 6「設計士が知っておくべき最新トレンド」 では、 省エネ基準の強化に伴う最新の技術や、補助金活用のポイント について解説します。

6. 設計士が知っておくべき最新トレンド
6. 設計士が知っておくべき最新トレンド

省エネ基準の強化に伴い、設計・施工の現場では、より高い省エネ性能が求められています。この変化に対応するためには、最新の技術や制度を理解し、活用することが重要です。

2024年の省エネ基準改正後、特に注目されているのが以下の3つのトレンドです。

  • ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)とZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)への対応
  • 省エネ補助金の活用によるコスト負担の軽減
  • 建築物のエネルギーマネジメント強化による運用の最適化

この章では、これらの最新トレンドについて詳しく解説し、設計士が実務で活かせるポイントを整理します。


次に 6.1「ZEB・ZEHとの関係」 では、 省エネ基準強化とともに注目されているZEB・ZEHの概要や導入のメリットについて説明します。

6.1 ZEB・ZEHとは? 省エネ基準との関係
6.1 ZEB・ZEHとは? 省エネ基準との関係

省エネ基準の強化とともに、ZEB(ゼブ:ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やZEH(ゼッチ:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)が注目されています。

これらの取り組みは、建築物のエネルギー消費量を大幅に削減し、将来的にエネルギー収支をゼロにすることを目標としています。

特に2024年の改正では、大規模非住宅建築物においてより厳しい省エネ基準が導入されたため、ZEBを意識した設計がより重要になっています。


● ZEB・ZEHとは何か?

ZEB・ZEHは、建物の省エネ性能を最大化し、再生可能エネルギーを活用することで、年間のエネルギー収支をゼロにする建築のことを指します。

  • ZEB(ゼブ):オフィスや商業施設などの非住宅向け
  • ZEH(ゼッチ):戸建て住宅や集合住宅向け

国は2030年までに、新築の建築物をZEB・ZEHレベルに引き上げる方針を掲げており、今後の設計・施工においてZEB・ZEH基準への適合が求められるケースが増えていくと考えられます。


● ZEB・ZEHの導入によるメリット

ZEB・ZEHを採用することで、エネルギーコストの削減や環境負荷の軽減だけでなく、補助金の活用や資産価値の向上などのメリットも期待できます。

次の 6.2「省エネ補助金の活用」では、ZEB・ZEHを導入する際に活用できる補助金制度について詳しく解説します。

6.2 省エネ補助金の活用
6.2 省エネ補助金の活用

建築物の省エネ基準が厳しくなる中で、補助金を活用することでコスト負担を抑えつつ、省エネ性能を高めることができます。 特に、ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)やZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)を目指す場合には、補助金の活用が重要になります。


● 主な補助金制度

補助制度対象補助率詳細
ZEB補助金(環境省)2,000㎡以上の非住宅建築物1/2(ZEB Ready)、2/3(Nearly ZEB)環境省 ZEB補助金詳細
ZEH補助金(環境省)戸建住宅(新築・改修)1戸あたり55万~90万円(新築)、1/3(既存住宅リフォーム)環境省 ZEH補助金詳細

● 補助金の活用によるメリット

  • 省エネ性能の高い設備の導入がしやすくなる
  • 初期コストを抑えながら、省エネ基準に適合できる
  • エネルギー消費量を抑えることで、運用コストの削減につながる

● 補助金を活用する際の注意点

補助金を受けるには、制度ごとの要件を満たす必要があります。設計の初期段階から要件を確認し、計画的に進めることが大切です。

  • 年度ごとに制度が更新されるため、最新情報を確認する
  • 申請のタイミングを見極め、スケジュールに余裕を持たせる
  • 補助対象となる設備や仕様を事前に把握する

補助金を活用することで、建築の省エネ性能を高めながらコストを抑えることができます。 最新の補助制度を確認し、適用できるものをうまく活用しましょう。

7. まとめ
7. まとめ

2025年の省エネ法改正により、すべての建築物が省エネ基準適合の対象となり、 建築設計における省エネ対応がより重要になっています。本記事では、 特に大規模非住宅建築物 に求められる基準や、 設計士が意識すべきポイントについて解説しました。

7.1 この記事でわかったこと
7.1 この記事でわかったこと

大規模非住宅建築物とは:延べ床面積2,000㎡以上の非住宅建築物に対し、より厳格な省エネ基準が適用される。設計段階で省エネ適合性判定が必要。


2025年の省エネ法改正の影響:すべての建築物に適合義務が拡大し、規模に関わらず省エネ基準への適合が求められる。また、BEI(建築物省エネ性能評価)の基準が用途ごとに細分化され、より厳格な評価が実施される。


設計・施工で求められる対応:一次エネルギー消費量の算定を正確に行い、BEI基準を満たすことが必須。また、高断熱外皮・高効率設備の導入など、適合基準をクリアするための設計が求められる。施工段階でのエネルギー性能チェックが強化され、適合性の確保が不可欠。


申請・適合基準の流れ:設計段階で省エネ計算を実施し、確認申請時に適合性判定を受ける。必要書類を整え、所管行政庁または登録判定機関へ提出。


省エネ補助金の活用:省エネ対策にかかるコスト負担を軽減するため、国や自治体の補助金が活用できる。最新の補助制度は環境省・国土交通省の公式サイトで確認。

7.2 設計士が今すぐ取り組むべきこと
7.2 設計士が今すぐ取り組むべきこと

1. 最新の省エネ基準を把握し、設計に反映する:2025年の改正により、これまでの基準では適合しないケースが増える可能性があります。最新の基準を正確に理解し、設計の初期段階から適合性を考慮することが重要です。


2. 省エネ計算を早めに実施し、スケジュールの遅延を防ぐ:適合性判定は確認申請と並行して進めるため、スケジュール管理が重要になります。適合性判定が必要な案件では、余裕を持った計画を立て、早めに省エネ計算を進めることが求められます。


3. 省エネ計算の専門家と連携し、最適な設計を進める:意匠性・コスト・省エネ性能のバランスを最適化するには、専門家との連携が有効です。設計の自由度を損なわずに基準適合を達成するために、必要に応じて専門家のサポートを活用しましょう。

7.3 最後に
7.3 最後に

省エネ法の改正により、建築設計・施工において求められる基準はこれまで以上に厳しくなっています。しかし、省エネ計算は単なる義務ではなく、建築物の価値を高め、長期的なコスト削減にもつながる重要な要素です。

私たち省エネ計算ステーションは、設計士の皆さまが本来の業務に集中できるよう、正確で迅速な省エネ計算を提供します。

「省エネ基準をクリアしつつ、設計の自由度を保ちたい」 そんなときは、ぜひ私たちにご相談ください。適合基準のクリアだけでなく、最適な設計を実現するための省エネ計算をサポートいたします。

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